【報告】11/2 第2回マンション防災勉強会「熊本地震発生からの500日:現地社員が体験した現場の声をご報告」

マンション防災勉強会 第2回目(11月2日開催) 熊本地震発生からの500日~現地社員が体験した現場の声をご報告〜
(株)あなぶきセザールサポート 取締役本部長
松井久弥(まつい・ひさや)さん
管理業務主任者/マンション管理士/宅地建物取引士/賃貸不動産経営管理士/M&Aシニアエキスパート

2016年4月14日と16日。地震が少ない九州で、最大震度7が2日間の間に2回という、まさに想定外の事態となった熊本地震。熊本市で70棟ものマンション管理を行っている(株)穴吹ハウジングサービスでは、発災当日から経験したことがない事態への対応を迫られました。
大地震が起こるとマンションには何が起こるのか?管理会社はどこまで対応するのか?住民たちは何をすべきなのか?生の声が満載の講演となりました。

熊本地震発生直後 管理会社は

あなぶきセザールサポートをはじめとするあなぶきグループ(以下あなぶきGr)は海外含めて約12万世帯のマンションを管理している会社で、横浜でも140棟の物件を管理しています。松井さんはかつて熊本に赴任していたこともあり、発災後の管理マンション対応についてサポートしてきました。熊本支社の社員はもちろん、全国から応援に社員が駆けつけ、管理人もまた普及不眠で対応にあたったそうです。
熊本で70物件というのは管理会社として最大シェアだそうです。

●熊本地震の特長
震度7という巨大地震が2度起きた
くり返し余震が遅い、何ヶ月も続いた

●被害状況
熊本県内ではマンションの約7割がなんらかの被害を受けていたそうです。多かった被害をまとめると
・壁のヒビ割れ(ほぼ全てといっていいぐらいのマンションで発生)
・タイルの剥落
・梁の交差した部分の欠落
・駐車場などの隆起
・ピロティの天井部分が剥落
・廊下にある消火設備のふたのゆがみや外れ
ほぼ全てのマンションで起こったのは壁のひび割れやコンクリの割れによる鉄筋の露出であり、柱部分のクラックは新耐震基準のマンションでも起こったそうです。

これらの被害状況は(株)あなぶきセザールサポートのブログで見ることができます。実際にどんな被害が起こったか、ぜひ写真を見てください。
熊本地震からマンション防災を考える①「地震被害の状況」
https://anabuki-m.jp/information/10791/

特に報道などでもよく見られたのがエクスパンションジョイント。これはそもそも揺れがあった際に建物を守るために割れることが前提になっており、想定通り割れたため建物が守られたのですが、被害が大きく見えるため誤解を受けました。
エクスパンションジョイントが割れたところも多かったそうです。余震も多く、本震では持ちこたえていても余震で割れることもありました。その場合は取り外し、ベニヤなどで応急処置し『危険』と記して注意喚起するしかなかったとのこと。補修が行われるまではこうしてしのいだりもしたそうです。

●知っておきたい起こりうる被害
「X状のクラックが入り、家の出口扉の枠をゆがませてしまう」
→扉が開かなくなり、外から男2人がかりでバールなど使いながら引き出す以外なかったとのこと。閉じ込められる可能性が高い事態です。

※耐震丁番を使っている扉はゆがまなかったが、まだ使われている建物は少ないそうです。
→バールは用意しておくべき道具

その後、無理矢理扉を開けると閉まらなくなるので、カギが掛けられず、外出や避難の際に不用心
→チェーンとダイヤル式のカギで対応
この2つも、発災直後にすぐ店頭から姿を消したので、備蓄しておくと良いでしょう。

●エレベーター
管理会社では修理できません。エレベーターメンテナンス会社はまず、公的機関や病院に向かいます。マンションは後回し。
※閉じ込めが発生した場合は優先的にきてくれたそうです
こうなったとき、高層階は水をどうするか? 買い出しに行ったら物資をどう運ぶか?という問題が発生。
さらに今回の地震の特長で余震が多かったため、補修に来て直してもらってもまた止まる……といういたちごっこも発生しました。

●ライフライン途絶
水、ガスが止まりました。受水槽が割れる、濁り水で汚染される建物もありました。そのため、給水車頼みにならざるを得ない状態に。

水は2つの意味で発災後の生活に影響を与えました。
①飲み水の確保
全国から駆けつけるあなぶきGrの社員は水を持っていこうとしたが、熊本市内に入る前にすべてのコンビニで売りきれ!!
→水は生きるために必須のもの。個人備蓄+マンション全体の共有備蓄を心がけた方が良い。

②漏水
生きている限り止められない「排せつ」。しかし、排水管や配管が割れているかどうか、目で見ることはできません。大丈夫そうだから……と、トイレを使ったことで階下に汚水が漏水したケースもあったそうです。
あなぶきGrではこうした場合、まずマンション全体の元栓を閉め、各戸の元栓を閉めてから、一戸ずつ開けて水を流して漏水していないかどうかを確認したそうです。不運にも漏水が出たお宅には、補修が終わるまで水を使わないようにお願いしたとのこと。
※食紅を使って漏水箇所を突き止める方法は有効かという質問が会場から出ました。有効だそうです。

水については、独自で素早い対応を行ったマンションもあったそうです。
1階にポンプを置き、地上に置いたタンクの水を各階で汲むことができる設備を整えた例がそれで、多額の費用がかかったそうですが、住民は大変助かりました。有事の際に「これは住民にとって必要だから」と、会計から出す決断をした管理組合および理事長がいたからこそできたそうです。このマンションは比較的戸数が多いこともあり、不意の出費として許せる範囲のような気がしますね。

●ゴミ
市のゴミ回収が始まったのは発災から数日経ってから。それも可燃ゴミのみだったそうです。
熊本地震の場合、揺れが大きかったこともあり、親戚の家や避難所、自家用車の中へ避難した人も多かったそうですが、家に戻った後、室内のガラスや破損した家電などをそのままゴミとしてゴミ置き場に置く人が続出、仕方ないこととはいえ、ピロティやゴミ置き場がこうしたゴミの山になってしまったマンションが多数発生したそうです。

回収が始まるまでのあいだ上手く対応したマンションは、駐車場の一部にブルーシートを置き、その上だけに集中してゴミを置くようにしたそうです。

応急危険度判定について
熊本地震の報道でよく見られた「黄」「緑」「赤」の応急危険度判定。これは通行人に対しての注意喚起を促すものであって、建物自体の構造についての危険度ではありません。赤を貼られたから建て直さなければならないという意味ではなく、通行人が通る際に注意してくださいという意味です。住み続けられるかどうか、とは関係がないのです。

マンション全体の地震保険・管理会社が代理店である方が断然良い

地震保険は個人(専有部のみカバー)と、マンション全体の保険(共有部をカバー)があります。
ここではマンション全体の地震保険について説明します。
マンションの建物の損害判定の基本は「一棟ごと」。全損(100%)、大半損(60%)、小半損(30%)、一部損(5%)と、どう判定されるかによって支払われる金額は大きく異なります。
構造上重要なものが破損した場合はカバーされますが、壁の脱落ぐらいでは、保険金は出ないものです。
あなぶきGrは保険代理店でもあるため、自社が管理している物件については管理組合と協力し、しっかりと被害見積もりを出します。
保険屋さんに一任した場合と異なり、普段から建物を見ているため、判断できる材料も持っており、再申請などの折衝の説得力も強いものになります。
このため、保険金の支払額が大幅に上がったマンションも多かったそうです。

保険金・修繕 明暗を分けたのは管理組合だった!!

熊本地震から1年と7ヶ月、いまだに修繕のめどが立っていないマンションもあれば、修繕に取りかかっているマンションもあります。その違いはどこにあったのか? 管理組合にありました。

●情報共有
例1)週2回、集会室で報告会を開催し、情報共有を行った
例2)理事長、役員が情報を集め、集約したものをエントランスに掲示。罹災証明や給水車情報などから、マンション内の情報まで。

保険金が10倍に!!
地震保険に入っていたあるマンションでは、管理組合ですぐに住民から破損箇所や破損状況を写真で集めて、保険会社と粘り強く交渉を重ねた結果、当初提示額の10倍の保険金が支払われました。これは週2回集会室での報告会を行っていたマンションでした。

一方で、未だに修繕のめども建っていないマンションは……
・住民がどこへ避難しているかも分からず、意見を集約できない
・管理組合(住民コミュニティ)が機能していない
ということが顕著に見られました。

あなぶきGrが見ているところ、
●理事会および理事長の決断力
●日頃の住民コミュニティ
●前向きな話し合いができる
こうした要素がある場合は次にどうするかをみんなで考え、即座に進むことができるとか。いかに日頃のつながりが大事かということです。

松井さんからのアドバイスとして、マンションで備蓄しておくべきものを教えていただきました。
●台車
●バール
●ウエットティッシュ
最低この3つは備えておくべきでしょうとのことでした。
※水は前述したとおり、各戸およびマンション全体での2段階備蓄があるとよいとのことです。

(株)あなぶきセザールサポートのホームページには防災のほか、さまざまなマンションの情報が載せられているお役立ちなページです。

<質疑応答>
Q.旧耐震基準のマンションと、新耐震基準のマンションで差がありましたか?
A.クラックや破損については余り差はなかったです。
最近多い免震マンションは、ダンパーの部分の破損はありました。しかし、建物の破損はほぼなかったです。

Q.熊本地震ぐらいの規模だと竪管(複数の住戸にまたがって竪に貫通している排水管のこと)はズレるのでしょうか
A.竪管事態はそれほど被害はないですが、ジョイント部分でエルボーになっているところは、築25年以上のマンションなどではズレたりしていました。

Q.玄関が開かなくなったとき、水平移動、つまりバルコニーから隣の家に移動して脱出というのはありでしょうか。
A.そのケースはほとんど無かったと聞いていますが、住民間コミュニケーションが日頃から取れていればありだと思います。

Q.避難所は戸建てが倒壊した住民優先でマンションは使えないと聞いていますが、避難所に行かれた方も多かったのですか
A.基本的に確かにその通りですが、余震が多かったので駐車場で自家用車内に避難などは黙認されていたようです。ただ、比較的早く自宅マンションに戻った方が大半でした。できれば、マンションで避難生活できる備えをした方が良いと思います。

Q.立体駐車場の被害はどうでしたか
A.かなりありました。エレベーターと同じで、業者が来ないと動かせないのが大変でした。パレットが傾いていると車が出せません。
一度直しても余震でまた傾くことも多かったので、平地に車を出しておくようにと促したマンションも多かったようですが、場所の関係で難しかったようです。

Q.各戸の地震保険、マンションの地震保険、罹災証明での支払の区分けは?
A.各戸の地震保険は専有部分のみ、マンションの地震保険は一棟全体です。罹災証明については個人それぞれと言うことになります。
ちなみに、火災が起こった場合ですが地震が由来の火災は、火災保険はカバーしません。地震保険のみがカバーできます。

※このほかにも多数の質疑が寄せられ、時間ギリギリまで絶えることがありませんでした。非常にリアルなお話しだったため、自分のところで起こったらどうなるのか……と、参加者の方々も思ったようです。
熊本県のマンション化率は5%でしたが、神奈川県は22.5%、横浜、川崎等の都市部では50%を超えています。関東圏の震災においては熊本以上に大きな問題が発生することが想定されます.
東日本大震災、そして熊本地震と、大きな地震での教訓はこれからの私たちに必ず必要になります。

あと2回、マンション住民が取り組んできたお話しを伺うマンション防災研究会、どうぞお越しください。

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■講座概要■
講座名:第2回 震災を経験した管理組合から学ぶマンション防災
日時 :2017年11月2日(木)19:00~21:00
会場 :かながわ県民センター11階コミカレ講義室1
参加者:31人
講師 :松井久弥(まつい・ひさや)
主催 :認定NPO法人かながわ311ネットワーク

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