【報告】11/22マンション防災勉強会最終回 「溝の口久本地区でマジメに軽やかに減災活動」-3つの事例と副産物-

]講師 パークシティ溝の口 山本美賢(やまもとよしかた)さん

マンション防災にとって条例や法、仕組みづくりはもちろんですが、それらを円滑に動かすために必要なものは“マンションコミュニティの形成”です。
これは、簡単そうに見えて実は一番難しいことかもしれません。しかし、熱意と工夫でこの部分の活性化に取り組み、マンション住民の防災意識を高めた例が…

3つのマンションの連携がなぜできたのか

川崎市溝の口。近年タワーマンションはじめ大規模なマンションが立ち並ぶ人気のエリアとなっています。駅の南東に広がる久本1〜3丁目にある「パークシティ溝の口」、「メイフェアパークス溝の口」、「ザ・タワー&パークス田園都市溝の口」はこのエリアを代表する大規模マンションですが、この3マンションは防災イベントや餅つきなどを共催したりと、他ではあまり例を見ない連携ができているマンション群です。
3つのマンションがつながるきっかけをつくったのが山本さんです。山本さんは2011年に「パークシティ溝の口」に入居、直後に総会欠席のまま、管理組合理事に選ばれてしまいます。山本さんは都内でWEB制作会社を経営しており、理事の仕事は負担でしかなかったのですが、理事会に出てみて考えが変わりました。
今まで理事をしていた先輩たちや、同時期に理事になった同年代の人たちが高い能力を持ち、非常に魅力的な人だったことが一因です。
「どうせやるなら面白く楽しみながらやろう」と考えを変え、積極的にマンションコミュニティに関わってみることにしました。
まずは情報共有のためにプロボノでマンションのホームページを作りました。PCがない高齢者のためには印刷して配布もしました。
住民が集まってお茶飲み話からマンションの問題点までなんでも話し合える場を作ろうと「ぱーくcafé」を開設したりとリアルなコミュニケーションづくりにも奔走。
また、お子さんが通っている小学校のPTAにも参加することにしました。するとまた新しい地元人脈ができました。子供のママたちです。ママたちはSNSなどを使ってネットワークを作っており、地域情報については誰よりも長けていました。そこで「メイフェアパークス」や「タワーアンドパークス」の管理組合や自治会の住民とも面識を持つようになったのです。

久本地区住民の40%は3マンション住民

3つのマンションのプロフィールは築年が異なることで特徴が異なりました。
「パークシティ溝の口」 築35年 1103戸
永住志向の住民が多いため入れ替わりが少ない=高齢化が進む
世帯主60歳以上が74%程度

「メイフェアパークス」 築17年 547戸 40〜50代の壮年層が多い

「タワー&パークス」 築11年 648戸 30〜40代の子育て世代が中心

山本さんはじめ、各マンションの管理組合や自治会、その中の部会で活躍している人々は、連携することがお互いにメリットをもたらすと感じました。
パークシティ溝の口に起こっていることは、このあとメイフェアパークスやタワーアンドパークスでも起こることです。修繕計画などは先に実施したマンションの事例は参考になります。一方で高齢化が進むマンションにとっては、災害などがあったときに壮年〜若手層の多いマンション住民とつながっていることは心強さをもたらします。
こうして3マンションでの交流が始まり、秋祭りや餅つき、防災イベントも始まりました。

2016年6月「パークシティ溝の口」でおこなれた3マンション合同の防災フェス。最後はピロティで「花は咲く」を合唱

沢山の人に興味を持ってもらうためには防災のことだけではなく「ちょっと足を運んでみようかな」と思わせる仕組みも必要です。そこで活躍したのが近隣の飲食店や川崎市内の農家、そしてPTAで知り合ったママたちでした。さまざまなブースが作られ、マンション在住の歌手によるコンサートも行われました。防災関係については山本さんの仕事仲間で防災を専門にしている人々が、「段ボールジオラマ」を使った防災ワークショップを開催しました。

3マンションで開催した防災ワークショップ。専門家を呼び段ボールジオラマを使ったDIGを展開

今までの防災訓練では、併せて3000人の住民のうち、150人程度来るのがせいぜいだったのに、このイベントには約500人が訪れ、防災意識の向上につながりました。
その時の様子はこちらの記事でも知ることができます。
ご近所さん3つのマンションが連携して防災イベント「炊き出しフェス」開催

3マンションがはじめて連携して開催した餅つき大会。PTAを通じて知り合ったママたちが「芋煮ガールズ」としてブースを出した

この規模のイベントだとどのくらい予算がかかるのでしょうか? ところがほとんどかかっていないそうです。川崎市の防災訓練補助金(自主防災組織活動助成金)を3マンション分併せた金額と、近隣の企業からの物資、協賛金などを合計した13万円の予算で計画し、開催後は1万円黒字になったそうです。
「普通の防災訓練で起震車を呼ぶより安い上に、実情に即した訓練になりました」(山本さん)。

1回このイベントを経験したことで、2017年に近隣にある「フィオーレの森」から「防災イベントをやりたい」と声がかかりました。このときも同じようにメンバーが集まり、フィオーレの森の店舗とも連携した「森の防災フェスinフィオーレの森」を7月に開催。地域にも広がりを見せています。

山本さんたちのスタイルは、誰かが指令してみんなが従って動くというものではなく、それぞれができることやアイディアを持ち寄って、自ら動く人を増やす“巻き込み型”です。
東北被災地でも長く有効的な活動をしているところを見ると、多くはこの“巻き込み型”です。核となる人物や組織が材料を提示すると、周囲にいる人が自分でできる部分を引き取って形にするというやり方が上手く回っているところが、長続きしているように思います。
このイベントも子育て世代、現役世代、円熟世代それぞれが興味と技術、関心を持つ部分を担当し、うまく連携したことで成功に繋がったという印象を持ちました。これが、コミュニティを作るコツかもしれません。

災害を我が事と捉えて遠隔地支援も協力して行う

2016年6月に行われたこのイベントは3マンションの防災意識向上の他に、もう1つの目的がありました。それが「熊本地震支援」です。
最も被害が大きかった益城市に兄弟が住む住民がいたことがきっかけで「自分たちに何かできないか」と呼びかけたその日のうちにママネットワークのLINEであっという間に情報が行き渡り、物資が集まりました。
男性陣が物資を置く場所を確保、退職リタイアしている住民は元の職場に呼びかけて物資を集め、日中時間がある高齢者住民が受付を対応……という連携で段ボール85箱の物資と40万円の寄付が集まったそうです。
それを車に積んで熊本まで運びました。
3マンションでは、楽しみつつも防災/減災の知識を蓄積していくことで、日頃の備えがいかに重要かという意識の向上と同時に、被災地支援にも活動が広がっていきました。

次の被災地のために、そして自分たちのために「炊き出しブック」を

熊本では広安西小学校のPTA会長である男性と、日々、避難所を回っては炊き出しを行っている飲食店の夫婦ともつながったので日々変わる必要物資のニーズを確認してから現地に送ったりときめ細かい支援を展開しました。
たとえば、被災地に大量に送られてきたヤングコーン。送り手は厚意で送ってきていますが、調理する際に皮とヒゲを取る手間が膨大で、疲労困憊になりながらやったとか、泥付きの野菜が大量に来たが水が出ないので洗えず使えないということが起こっているのを聞き、支援する側としての心構え「現場で何が役立つかを考える」を学んだそうです。
また、食中毒を防ぐために紙コップにあごだしと乾燥油揚げ、鰹節に味噌とお湯を加えるだけの味噌汁が大好評で「これは今後も被災地で使える」という実感を得たりもしました。

支援の中で炊き出しのノウハウを聞き「この先も起こる災害時に必ず役立つ」と確信した山本さんは、100日間の炊き出しレシピを聞き取り、現地の人々+自分の地元の住民や周辺のクリエイターを巻き込んで「おいしいミニ炊き出しブック」を作成予定です。
(内容については以下を参照)
熊本地震の経験・ノウハウを「食」の切り口でつなぐ「おいしいミニ炊き出しブック」

マンションの防災を考える上でコミュニティづくりは「ハード」と「ソフト」のソフト部分にあたり、マンションの規模や住民構成が異なるため一律に取り組むことは難しい内容です。
しかし発災時にコミュニティがあるかないかで、復興に向けての道筋は大きく変わります。日々の生活もですし、修繕が必要になったときの合意形成にも関わってくるのは、これまでの勉強会でも話されてきたとおりです。
自分も楽しむこと。指導するのではなく一緒にやること。とにかく何か始めていくことであなたのマンションも変わっていくかもしれません。

質疑

Q.管理組合理事と自治会役員を両方経験しているそうですが、違いはありますか。

A. パークシティ溝の口では、ほぼ100%の住民が自治会にも加入しています。全所有者が加入する管理組合は運営であり、一つの街を作るような感じ。環境整備とか修繕とか防災が中心です。
自治会はお祭りに向けて1年かけて準備していくような感じでしょうか。管理組合は自分がいたときに、任期1年では短いので複数年に変更しましたが、自治会は1年なので、ノウハウが伝わらない面があります。今後は自治会の中に下部組織で任期のない青年部などを作って活性化を図り、運営をスムーズにして高齢者対策や防災にも関わり、お祭り8割の状況を変えたいです。

Q.盛り上がっていて楽しそうに感じました。イベントの告知はどのように?

A. チラシの全戸配布+ホームページに掲載、またフェイスブックなどのSNSも活用しています。高齢の方はデジタルには対応していない方が多いので、チラシの全戸配布が一番届きます。

Q.炊き出しのことですが、高層階の人たちは災害時に下まで降りてくるでしょうか。うちのマンションでは高層階の人たちから不公平だと声が出ました。
A.実際まだそこまでの声は聞いていないですが、自分自身としては「配給してもらう」という意識じゃなく、自助の部分の重要性も伝えていきたいですね。

Q. 防災について、管理組合と自治会での役割分担は?
A.防災については共同の会にしていて、区分所有者と賃貸居住者を分けないようにしたいと考えています。お金の流れは自治会費は積立で、管理組合が自治会にコミュニティ形成としての委託費を出している形です。
備蓄品購入は管理組合の予算です。
役割については規約でそれぞれの役割を明記しています。

■講座概要■
講座名:第4回 災害に強くなる!ご近所マンションとの軽やか減災活動
日時 :2017年11月22日(水)19:00~21:00
会場 :かながわ県民センター11階コミカレ講義室1
参加者:27人
講師 :山本美賢(やまもとよしかた)氏
主催 :認定NPO法人かながわ311ネットワーク

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