【報告】11/15 第3回マンション防災勉強会「住民自身が取り組むマンション防災:防災マニュアルを作成したマンションに学ぶ」

マンション防災勉強会第3回
住民自身が取り組むマンション防災
〜防災マニュアルを作成したマンションに学ぶ〜

特定非営利活動法人東北マンション管理組合連合会
常務理事 小島浩明さん

1回目は法的な立場、2回目は管理会社の立場、第3回目となるマンション防災勉強会、今回は東日本大震災を経験し、マンションに特化した被害に対し「マンション防災マニュアル」の必要性を感じたことから震災後、マンション防災の普及に取り組む小島浩明さんにお話を伺いました。今回は特に備えのあるなしが発災後のマンションの命運をこれほど分けるのか!という驚きがありました。マンション住民はぜひ知っておいて欲しい話です。

備えあることが支えになる
小島さんはNPOでの活動のほか、一般社団法人日本マンション学会東北支部でも活躍されており、マンション防災はじめマンションでのさまざまな問題に対応してきた方です。ご自身が暮らすマンションの防災倶楽部という自主組織の代表であり、自治会の顧問でもあります。

小島さんももちろんマンション住民。今回は、ご自分が住まわれているマンションを例としてお話くださいました。
仙台市の最南端にある小島さんのマンション(Aマンションとします)は、154世帯、2棟あるようにみえるが、1階でつながっている1棟建て。北側と南側に公園を擁するマンションです。
宮城県の人々は、約38年おきに発生している宮城県沖地震があるため、地震に対しての備えをしていることが多く、Aマンションでも備えはしていました。
乾パン約500、ミネラルウォーター約500本、また石油ストーブも備蓄していました。
防災訓練も行っており、自衛消防隊の組織図も作っていました。
小島さんは会社で被災、夜、マンションに帰ると、すでにエントランスに住民が集まりストーブを付けて暖を取っていたそうです。備えがあったためにこうしたことができたのですが、それでも小島さんいわく、
「乾パンはあまり有効な備えではないですね。1日ならともかく、ずっと食べるのは辛い。また、ミネラルウォーターはあってよかった面もありますが、Aマンションは14階建てで、高層階に階段で持って上がる、それが苦となり利用しなかった方も多いようでした。」
さらに、防災訓練は主として火災対応の訓練に偏っており、地震のときにはあまり役立たなかったとのこと。

困ったことの1つは情報収集
停電するとテレビが見られない。被災地以外では得られている情報が、肝心の被災地では見ることができず、困ったそうです。
発災後に住民にとって何が必要になるか?それは、「給水車がいつくる」「◎◎でガソリンが買える」「△△で食べ物が買える」という生活の情報。
ラジオはあったそうですが、流れてくる情報の大半は安否情報で、なかなか生活情報は入らなかったので、誰かが得てきた情報を住民で共有するために壁新聞を作ったそうです。

震災の経験を経て、更に強化したもの
1000年に一度の震災はさまざまな経験、教訓をもたらしました。Aマンションでは次の災害に備えてさらなる強化を行いました。
小島さんは管理組合役員である「防災管理者」に復帰しました。そして、管理組合では「震災時に必要だったもの」を洗い出し、以下のものを備蓄に追加。

①ガスボンベタイプの発電機
②100メートルにもなる耐圧の給水用ホース
③トランシーバー
④リヤカー

電気が使えないことは大変不便でした。仙台市役所や県庁は3月12日朝には復旧していましたが、Aマンションは4〜5日間停電したまま。携帯の電池もすぐなくなるし、テレビが見られないため情報が得られない。そうした経験を踏まえて、発電機を購入しました。

100メートルにもなる給水ホースは、飲料水のためです。電気が来てないので、受水槽が無事でも水を汲み上げられません。かといって、ミネラルウォーターや水を入れたポリタンクを持って高層階まで上がるのはとても大変。中層階でも大変です。

そんなとき、よそから「蛇口の水圧だけでかなり上まで水を上げられた」という話を聞きました。
そこでちょうど中間となる7階までの長さとなる100メートルホースを業者に特注しました。
実際に、受水槽の非常用水栓を開けてみると、その水圧で7階まで水を上げることができたそうです。

トランシーバーは、もともと2台備蓄されていたのですが、多機能過ぎて使い方がわからず、震災時に役立たなかったそうです。そこで誰でもすぐ操作できるシンプルなもの6台に買い替えました。
リヤカーは、軽くて持ち運びしやすいものを備えました。

震災後に整えたもう1つのもの・コミュニティの強化
災害時には自助・共助・公助といいますが、公助は日々頼るのは無理があり、大切なのは自助、そしてなにより共助と小島さんは言います。
そのためにはマンション内でコミュニティを作り、何かあったときに助けあえる体制を整えておくことが必要です。

そこで、震災前から存在はしていたけれど休眠状態だった管理組合の中の組織「防災倶楽部」を再スタートすることに。しかし……!震災を経験しても、154世帯中参加に名乗りを上げてくれたのはわずか3世帯!
防災担当理事の奥さんが「みんな忙しいから『防災やりましょう』だけでは集まりませんよ。小島さん、クオカードを配るようにしましょうよ。そうしたら私が奥さんたちを連れてきます」と助言してくれ、それがきっかけとなり今ではコンスタントに10数名集まる会になり、活動報告などを回覧しています。

「防災からコミュニティを作ろうと思っても難しいと思いました。まずなんでもいい。私たちのマンションではガーデニングや餅つき、自治会室での大茶話会、フリマ、流しそうめん、集会所でのナイター観戦などを行っています。まず人が集まることが大切」(小島さん)。

マンション内で顔が見える関係が築けたら、さらに進められることがあります。それはマンション内の自主防災組織の設立です。
そもそも、災害時の共助は町内会などの単位が基本。国はマンションはそれぞれでマンションの町内会とも言える自主防災組織の設立を勧めていますが、全国的に見て、これが作られているマンションはまだまだ少ない状態です。
ただ、小島さんは「発災時に自主防災組織が目的どおりに機能するかは不明」といいます。災害はいつ起こるかわからず、平日日中の場合はリーダーがマンションにいないことが多いもの。
さらに「要介護の人がいるかいないか」という名簿の作成や独自の防災マニュアルの作成など(仙台市では防災マニュアルの雛形を公開しており、各マンションで利用して独自のマニュアルを作成することができます)も、実際何か起こったときには、停電している室内で、散乱するガラス破片や倒れた家具を避けながら探すことは難しいとも。

「ただし、自主防災組織、そして防災マニュアルを作ることには大きな意味があります。作る過程で自分たちのマンションの構造と避難場所などを改めて見ることができますし、地域との連携の大切さや指定避難場所の確認などができるからです」
たとえば、マンション住民は地域防災拠点(避難所)に行くことは基本的にはできず、マンションで避難生活を送ることを推奨されています。
仙台市では、指定避難所の運営組織に認めてもらえば、マンションの集会室やエントランスを、指定避難所ではないが地区避難施設にすることができるそうです。
Aマンションは2つも公園を擁すマンションなので、公園をいっとき避難場所に指定し、地区避難施設も地域との話し合いで周囲の人々も利用できる施設として、決めたそうです。

加えて、自主防災組織を作り、マンション防災マニュアルを作成しました。マニュアルに従って訓練をするといろいろなことに気が付きます。備蓄品の過不足や使用方法のチェックなど。
先に上げた発電機ですが、Aマンションで購入した発電機は動かすときに別売りのオイルが必要でした。訓練で動かしてみて初めて気がついたそうで、実際にやってみることで慌てずにすみます。

訓練も、毎年同じスタイルではだんだんマンネリ化してきます。Aマンションではローリングストックの実践で、アルファ米や缶詰を使い「おいしい災害食」をみんなで作って食べ、コピー用紙を使って作るスプーンをみんなで作ったりもしています。
さらに、防災訓練として、料理教室の先生を招いて最低限の水とカセットコンロで何が作れるか、分量はどのくらいできるかを指導してもらったりもしています。
また、夜間の防災訓練を行うことでランタンの必要性を実感し、購入が決まりました。

仙台市の「杜の都 防災力向上マンション認定制度」
震災後、仙台市ではマンションの防災力向上を目的に「杜の都 防災力向上マンション認定制度」を打ち出しました。これは、防災性能と防災活動のすべての項目に取り組むと最大6つ星を得ることができるもので、Aマンションも5つ星を取得しています。

詳細はこちらに記載されていますが、各マンションにとって励みになると同時に、資産価値を高めることにもなります。仙台市はこの制度で認定を目指すマンションには、防災マニュアルを作成するための専門家派遣も行っています。
仙台市の分譲マンションは1399棟。仙台市は2016年(平成28年)に全分譲マンションを調査し、管理実態を報告書としてまとめ公開しています。
仙台市のマンション化率は16.47%、横浜市は28.00%ですが、世帯数は仙台市が48万8650世帯なのに対し、横浜市は170万88世帯。規模は違うとは言え、仙台市はマンション防災について力を入れていることが感じられます。
管理実態報告書によれば、防災マニュアルを作っているマンションは43.7%にものぼります。作成の手引があり、専門家派遣制度があることも後押しになっていると思われます。

デメリットではなくマンションでしかできないメリットを探そう
自主防災組織や防災マニュアルは作る過程に意味があるという小島さん。しかし、最低限作っておきたいものとして居住者名簿を挙げました。どこに誰が住んでいるか。100世帯を超えるマンションでは、全員が知り合いという訳にはいかないでしょう。居住者名簿は避難が必要な災害があった時に、バラけてしまった居住者に連絡を取る命綱ともいえます。それがないと、保険査定や建て替えの同意などが取れず、マンション自体の復興がどんどん遅れてしまうのです。

「マンションにはデメリットもたくさんあります。でも、逆にマンションだからできることもあります。考えてみればマンション住民は“同じ屋根の下”の仲間なんです」
まとまればこれほど頼れる仲間はない、小島さんはそう教えてくれました。

このほか、地震保険査定についてのお話も出ましたが、第2回と重複する部分なので割愛いたします。
少しだけ記すと、Aマンションは2回地震保険が出たそうです。それは3月11日の本震と、4月7日の大きな余震と、両方の査定がなされたからです。
保険会社の査定は、暮らせないレベルで破損していても、最初から全損扱いになることはなかったそうです。住民が協力し、梁と柱にどのくらいの被害があったかを細かく調べ、記録に取ることを重ねてようやく認められたとのこと。
3月11日のあとすぐに調べ、写真を撮ったりしたことで、4月7日以降の亀裂やヒビが別物と判定されて7000万円以上がおりて、補修は7000万以下ですんだそうです。
ここでも「住民の連携」は大切だとわかります。

そして、2回め講師である松井さんからも小島さんからもご指摘いただいた点だけは改めて書き記します。

「マンション全体の地震保険に入っていないと、補修も建て替えも難しい」
ご自身のマンションが保険に加入しているかどうか、総会などで確認してください。

質疑応答
Q.震災のときにトイレの使用についてはどうしていましたか?よく、排管が壊れて使用すると下階に汚水が漏れるという話を聞きます。

A.東日本大震災では、排管の損傷の話はそれほど聞いていません。風呂の残り湯を使って使用していたという話は聞いています。
また、個人的な実感として普段の生活と全く異なる生活となり、食べ物、水に不自由する状態ではトイレに行く頻度も少なく、その点はあまり問題になりませんでした。

※司会より補足。熊本地震を例とした第2回めでは排管損傷により下階への汚水の話が出ましたが、熊本地震は直下型地震、東日本大震災は海溝型地震であり揺れのタイプが異なるため、損傷に違いがあるのかもしれません。

Q.現在防災マニュアルを作っている最中です。住民への周知として、発災後にブレーカーを落とさずにいたことによる火災が心配なので、災害時にはブレーカーの電気を落とせと徹底すべきか悩んでいます。どうしても、みんなテレビをつけて情報を取ろうとするでしょうから。

A.あまり細かく厳密にしなくてもよいかと思います。東日本大震災のレベルだとブレーカーを落とす云々より逃げるのが最優先事項でした。電気の復旧の際は電気会社から、通電するがブレーカーを落としてますか?と連絡が来ます。
停電後にブレーカーが落ちて、通電後上げたときに火災が起こったという話は周囲では聞いていません。マンションでの火災はほとんど起きなかったように思います。スプリンクラーの誤作動も聞いていませんね。

Q.停電に備えて給水用のホースを購入したとのことですが、その他の方法をご存じですか。

A.6つ星を獲得しているBマンションでは、非常用発電機で地下タンクからモーターで最上階まで水を引き上げたそうです。
このマンションは仙台市内のマンションの中で防災対策がNo.1といっても過言ではなく、毎年100万円以上、防災につぎ込んでいたので東日本大震災のときにも態勢がしっかり整っていたそうです。
当日、ベテランの理事長は不在だったそうですが、夜に帰ってきたらみんな不自由なく日頃の防災訓練を活かして行動していたそうです。
このように、誰か1人がリーダーでその人頼みになるのではなく、誰でもがリーダーになれる状況を整えるまでいけたら素晴らしい。

またこのマンションは防災倉庫の中にホワイトボードを備えていて、備蓄品を使ったら数を書き換えるという対応もしていて、うちも取り入れようと思いました。

今回紹介いただいた資料は、以下でダウンロード、または購入できます。
「仙台市防災マニュアル作成の手引」「防災マニュアル作成例」
http://www.city.sendai.jp/mansion/kurashi/machi/sumai/bunjo/oshirase/sakute.html

「平成28年度仙台市分譲マンション管理実態報告書」
https://www.city.sendai.jp/mansion/kurashi/machi/sumai/bunjo/chosa/kanri.html

特定非営利活動法人 東北マンション管理組合連合会
http://www.tohoku-kanren.jp/

■講座概要■
講座名:第3回 震災を経験した管理組合から学ぶマンション防災
日時 :2017年11月15日(水)19:00~21:00
会場 :かながわ県民センター11階コミカレ講義室1
参加者:25人
講師 :小島浩明(こじまひろあき)氏
主催 :認定NPO法人かながわ311ネットワーク

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