【報告】マンション防災勉強会 連続講座第1回 マンションでこそ知っておきたい『防災の家計簿』

マンション防災勉強会 連続講座第1回
マンションでこそ知っておきたい 『防災の家計簿』
〜災害時のリーガル・ニーズと生活政権情報の知識の備え〜

発災時、「知識を持った」マンション管理組合は住民の生命線になり得ると言えます。内閣府上席政策調査員として出向中、東日本大震災が発災、日弁連災害対策本部室長などを歴任する中で災害時に起こるさまざまな相談事例を4万件データベース化した岡本正さんは、一律ではない相談内容に対し法がどのような助けになるかを分析、法改正や新制度構築に関わっている方です。
4万件の声はこれから被災するかもしれない私たちの声かもしれません。マンション管理組合はその助けになるのでしょうか?

未曾有の災害時、生きのびたあとに寄せられる相談とは

想像を超える災害があったとき、その直後は「生きのびる」ことがまず第一の命題となります。さまざまな困りごとや誰に聞いたら良いのか分からないこと、特にお金に関することは生きのびたその直後から降りかかってきます。
マンションに限らず発災後に何が起こるかを、東日本大震災および熊本地震の事例から岡本さんに紹介していただいたものをあげてみます。
被災後の深刻な悩み、「お金」「住まい」「家族」は、地域別、時間別に異なってきておりそれぞれに重要です。

「家がなくなりました。当面の生活費となる貯金もほとんどありません。どうしたらよいですか?」
「ローンが1200万円、このままリース料金やローンを支払わなければなりませんか?」
「借家が破損、家主も被災していて修繕どころではない、どうすれば?」
「一家の大黒柱が亡くなりました。受験を控えた高校生の子どもがいます。大学はあきらめなければなりませんか? まとまったお金はありません」
etc..etc….
マンションであれば
・水漏れ(配管破損)
・上下階からの被害
・工作物責任
などが大問題となり、地震が原因でも損害賠償責任を負う可能性も高くなります。

東日本大震災では特に、こうした問題に対応する法制度がきめ細かくなかったのですが、それでも既存の中で「知っていれば対応できた」ことが多々あるとのこと。
避難所で、あるいは半壊の自宅で途方に暮れるのではなく、まずできることを知っておきましょう。
●罹災証明を必ずもらうこと(被災者であることを証明してくれる書類)
●被災者生活再建支援金を申請する(東日本大震災時は100万円。使い方に制限がない)
●災害弔慰金(一家の大黒柱が無くなった場合500万円、それ以外の方の場合250万円)
●応急修理制度(半壊で約60万円の支援)
これらはまず知っておくべきことです。まずは役所にすぐに相談に行きましょう。
そのほかにも、各種の支払に猶予制度があること、公共料金の減免措置があること、権利書や実印、証券がなくなっても大丈夫なこと、何の保険に入っていたか忘れていても、被災者なら調べられること、こうしたことを知っているかいないかでは被災後の生活が大きく変わってきます。

また、2016年(平成28年)4月から適用が開始された「自然災害債務整理ガイドライン」は、東日本大震災を受けて作成されたものですが、それでもその存在を誰もが知っているとは言えません。
熊本地震では700組が利用しました。今後もインフォメーションが必要でしょう。

マンションだからこそできること
災害時には誰もが大変ですが、管理組合がこうした情報を把握していれば、情報伝達にはかなり有効なシステムを作ることが可能だというのが岡本さんの指摘です。そもそも住民に情報を伝える掲示版などが活用できるからです。

ここで岡本さんにお聞きしたマンションの基礎情報を記します。
日本の高齢化に伴い、マンション住民の年齢も高齢化をたどっています。2013年(平成25年)データで見ると、5割が60歳以上。かつてマンションは一戸建てを建てる前の仮住まいという感覚もあったでしょうが、最近では定住する人も増えています。
とはいえ、その中で旧耐震基準(1981年・昭和56年以前)のマンションはというと、3万8000棟、戸数で言うと146万9423戸にも及びます。この旧耐震基準のマンションの6割が首都圏に集中しているという事実。首都直下などの可能性を考えると、耐震診断をした上で必要な耐震補修を行うべきなのですが、診断をしているマンションは3割程度なのです。さらに、診断後にこれはいかんと補修をしたマンションはこの3割だという話。
「あなたのマンションはいかがですか?」

さらに岡本さんの話では、震災後、3割のマンションは何もしていないそうですが、逆に防災に手を付けたマンションでは
・高齢者名簿の作成
・自主防災組織の立ち上げ
といった動きが出てきたそうです。これらは自主的な動きであり、専門家が入らずに自分たちで行っているのが特徴です。

マンションで何かあった場合、たまたまであってもそのとき選出されている管理組合が中心にならざるを得ません。もしかしたら、そのとき、あなたが「たまたま」管理組合理事長かもしれません。

大切なのは「災害前の備え」、そして「発災後のとりまとめ」です。

ここからは岡本さんの話を聞いての感想ともなりますが、できるだけ管理組合の理事間で情報共有し、発災時に起こすべきアクションについて話し合っておきましょう。
どこかに発災後に必要になる情報をまとめて管理しておき、いざというとき全員がそれを見られるように。
住民すべてが置いてきぼりにならないよう、相談事はすみやかに相談すべき相手と引き合わせ、各個人によって異なる悩みを解決する道筋を付けるようにできれば、住民の、そしてあなたの不安は軽減できるはずです。

以下、質疑応答
Q.罹災証明は発行が遅いと聞きましたが。
A.確かに時間はかかります。ただ、行政の担当者も被災者なので、仕方の無い部分もあります。罹災証明がなかなか発行されなくても、支援があることが分かっていれば安心して待つことができます。
罹災証明が発行される前でも、保証を受けることは可能です。もめ事になる場合にはぜひ、弁護士などの専門家に相談してください。

Q.マンション住まいです。マンションとしての地震保険に入るべきでしょうか。
A.それぞれ事情が異なるので一概には言えませんが、入るにしても入らないにしても、シミュレーションをしっかり行うことをお勧めします。どんな費用がどの程度必要になるかをしっかり把握した上で、最終的に住民の意思で決定すべきです。

Q.マンションは一般的に罹災しない(しにくい)ので補助金は出にくいと聞いています。専有部分または共有部分の補修について何か(公的な)制度はあるのでしょうか。
A.法的な整備はまだないですが、ケースによって県や市が補修費を助成する場合はあります。

第2回目以降も、様々な視点から、マンション防災について取り上げます。

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