【報告】第4回東北未来カフェ 未来会議トークナイトin横浜

対話を続ける“福島のいまの姿”を、地元の地酒と美食とともに感じる一夜

東日本大震災の被災地にゆかりのあるゲストを横浜・関内のさくらWORKSに招き、お酒を片手に“ゆるく語る”連続企画「東北未来カフェ」。10月8日(土)に行われた4回目は、NPO法人かながわ311ネットワークの所属で横浜から福島・いわきに移住した山根麻衣子さんが、福島の生の声を伝えるため、いわきで出会った仲間とともにクロストークを行った。

招かれたのは、5児の母でビールをこよなく愛する弁護士でもある「未来会議」事務局長の菅波香織さんと、「未来会議」から派生した「双葉郡未来会議」で代表を務め、さらに音楽プロデューサーでホテル経営者でもある平山勉さん。トークは、ふたりの東京・横浜との関わりや震災当時の個人的な状況紹介から始まり、「未来会議」の話に及んだ。
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くつろぎながら誰もが参加できる対話の場として、「未来会議」は2013年、いわき市で発足した。もともとは前年に国会で成立した「子ども・被災者支援法」を作るにあたり、弁護士グループのひとりであった菅波さんが、住民の意向を聞くために行われた対話形式のワークショップに参加したことがきっかけだった。このワークショップで見られたのは、“相手の意見を否定しない” “ひとつの結論を目指さない”をルールとする「ワールドカフェ」の手法。この方法で話し合うことで、菅波さんは自分自身に変化が生じたことに気がついたという。「この手法で対話をすると、私は自分のやりたかったことが整理されてきて。『未来会議』に来ている人に自分の思いについて話すと、じゃあ、それを実現しようという声が上がってきて、私自身の考えが進化して発展していきました」。

また、人と話すことがそれほど得意ではなかった平山さんは、「未来会議」に発足の段階から関わるにつれ、人との繋がりが飛躍的に増えていった。「本来は話し合いで解決するようなまどろっこしいことをするくらいなら、やっちまえ!冗談じゃねえぞ!と手が出てしまうタイプ。でも最近はカチンとくることを言われてもいったん腹の中に収めて、『そうですよねえ』と返せるようになった。そんな対話を続けているうちに、繋がる人が増えてきた。人と繋がる感触を得たくて、活動を続けていますね」。
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いわき市の人口は横浜市の10分の1である約320,000人、面積は横浜市の約3倍の1231キロ平方メートルを誇る。広大な面積を持ついわき市は福島第一原発周辺の自治体からの避難者約24000人を受け入れており、住民は地震と津波の被害に加え、原発事故による放射能・健康・風評・差別・賠償問題、さらに避難者との問題も抱えていた。置かれている立場により皆、意見が異なるため、住民同士も話しづらい。菅波さんも当初は、いわき市に住みながら、5人の子どもたちを被曝から守るため、かなり注意払って生活をしていたひとりだ。「頑張って生活している双葉郡出身の人たちと触れ合っているうちに、健康被害や住民同士の軋轢などの悩みも氷解してきたというのが説明として正しいかな。不安や悩みはなくならないけれど、心のトゲトゲ感がなくなって、いわき市以外から来た人とも共存できるようになりました」。

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一方、平山さんは、実家がある双葉郡富岡町は避難指示区域内で、未だに戻ることができない。現在の自宅は同じ双葉郡でいわき市と隣接する広野町にあるが、いわき市に避難する双葉郡の住民をこう思いやる。「いわき市民と避難者との軋轢はあるよ。俺だって『お前、賠償金もらっていいな』と面と向かって3回は言われたもの。でも仕方がないのよ。俺が決めたことじゃないしね。こっちはこっち(=避難民は避難民)で頑張るから、そっちはそっち(=いわき市民はいわき市民)で頑張りなさいよ。立場が違うからって否定しないでよって感じかな」。

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日々の暮らしで感じることを、県内・県外、出身に関わらずワークショップ形式で語りあえる場として「未来会議」の活動は続き、今年9月で本会議は13回目を迎えた。今では本会議だけでなく、子どもたちだけで話し合う「子ども審議会」や福島第一・第二原発を視察する「1F視察/2F視察」、「旧警戒区域へ行ってみっぺ!」など、スピンアウトアクションも多数行われている。なかでも目を引くのは、“はなれていてもおとなりさん”を合言葉にバラバラになってしまった双葉8町村の住民同士を繋げる「双葉郡未来会議」だ。平山さんらが牽引し、“見る” “知る” “繋がる”を三本柱に、50年後の双葉郡のコミュニティーを目指している。

聞き手を務める山根さんは、平山さんがFacebookに綴った“ノイジーマイノリティー”という響きが忘れられないという。
山根さんが平山さんに水を向けると「浪江町の避難区域解除に向けた住民説明会に行った時のことね。住民説明会に行くと、『年間20ミリシーベルトだぞーー! 何でそんなところに子どもを返すんだーーー』と、声高らかに騒ぎ出す人がどこの会場にもいるんですね。でもね、もっとそういう人たちに考えてほしいのは、“帰る、帰らないのは、個人の選択の自由”なんですよね。人に決められることではない。会場の9割の人は、浪江に帰ろうと思って話を聞きに来ているんです。騒ぐ人は、実はほんの少数で1割にも満たない。だけど、この騒ぎ出す1割以下の人の意見が全国のニュースに流れてしまう。下手をすると、地元以外の人が騒いでいる場合もあって、その人の声が地元の人の声としてメディアに流されてしまう。メディアの人は、もし騒いでいる人がいたら『あなた、どこの人ですか?』と一言訊いてみてくださいね」とメディアへの念押しも忘れない。

双葉郡住民説明会の話の後に、菅波さんがやや躊躇をしながら続ける。「震災からもう5年も経つのに、双葉郡の7万人の人が家に帰れない現実は、日が経つにつれ、異常さが増していると思います。“異常なことは異常”なんだと、心に留めておかないと気持ちが悪い」。そして「東京・横浜の人を見ていると、福島の現実がまるでなかったかのように見える」とも。

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一方、平山さんは「福島のニュースが少ないとか、風化とかは気にならない。忘れるなら忘れてくれよって。ただ、黙っているだけじゃなくて、双葉郡の実際の様子をメディアに頼らず、自分たちで発信します」と力強い。菅波さんの心の揺らぎも、平山さんの思いも、福島に住む人の偽らざる気持ちなのだ。

クロストークの終盤、菅波さんが「私の住むいわきの自宅からは、双葉郡もいわき市の南に行くのもだいたい小旅行に行くような距離で、子供の頃からどこも大好きな場所。その自分の好きな場所が、震災でぐちゃっと踏みにじられた気分で。なので今は、子どもを連れて、震災前に大切だったものをひとつずつ掴み直しに行っているんです」と語る。そのお子さんたちと今年、昨年に解禁された海釣りに出かけた。「釣った魚を子どもたちと食べました」と話す菅波さんの目の表情が一瞬パッとほころんでいた。

トークの後は、参加者お待ちかねのごはんタイム。シェフ自ら腕を振るう福島産の食材をふんだんに使ったごはんと、福島自慢の地酒が振る舞われた。又兵衛、磐城壽など、地元で消費されるため、県外でなかなか飲むことの出来ない地酒に酔いしれながら、参加者たちは、福島の郷土料理である「サンマのポーポー焼き」に舌鼓を打つ。「サンマのポーポー焼き」は、新鮮なさんまを存分に使ったなめろうを、生姜、ねぎ、味噌を加えてハンバーグのようにして焼いたものだ。

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特に人気があったメニューは、正月のご馳走として福島ではもてなされる「ウニの貝焼き」。はまぐりの貝にウニを美しく敷きつめた様を、参加者たちは一斉に写真に収めていた。また、最後に振る舞われた「サンマといわきのオリーブパスタ」はサンマのエキスが濃厚。ジェノベーゼ風に仕上がったパスタで参加者の胃袋も充分満たされ、会話も弾んだ。

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会場には福島出身の参加者も多く、福島の人々の熱い思いを、食とトークでとことん感じられる一夜だった。(文:横山由希路)

「未来会議トークナイトin 横浜」のお酒とごはん

■提供した地酒と食材について
大震災、原発事故に遭遇した人々に、それぞれのドラマがあるように、被災地の食にもドラマがあります。今回いわきを中心に提供したお酒と食材のドラマをいくつか紹介します。
★日本酒
今回は3つの酒造店から6品種を用意しました。

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中でも、震災後有名になったのが『磐城壽』です。磐城壽を醸造していた酒蔵の株式会社鈴木酒造店は福島県相馬郡浪江町請戸というところで地酒を造っていました。「最も海に近い酒蔵」というキャッチフレーズでしたが、2011年3月11日午後、巨大津波で酒造りに必要な一切を店もろとも流されてしまいました(なおかつ酒蔵は福島第一原発から直線距離で7キロメートルにあって最初は警戒区域にされ、現在も避難解除指示準備区域内にあります)。その後、福島県試験場に預けていた酵母が生きていることが分かり、鈴木酒造店の鈴木市夫社長は同じような醸造環境を求めて山形県長井市の酒蔵を買収し、株式会社鈴木酒造店長井蔵として酒造りを再開しました。
いわきにも酒蔵は何軒もありますが、今回は合名会社四家酒造店の『又兵衛』と大平桜酒造合資会社の『いわきロマン』を提供しました。両方とも、いわきの外にはほとんど出回っていないレアな日本酒です。いわき市内の酒蔵で鈴木酒造店と同じように地震・津波で店が崩壊し、別の地域で再建を目指している店もあるとのことですが、その酒蔵の味を再現できるかどうかで、なかなか決まらない店もあるとの話でした。

★ワイン
新しく市場に登場した『いわき夢ワイン』。話は震災前にさかのぼります。「NPO法人みどりの杜福祉会」はワインどころ甲州での実績などから、ゆったりとした時間の中で育まれるブドウ栽培とワイン作りは障がい者に向くのではないかとして就労支援の一環としてブドウ栽培を始めていました。しかし原発事故で当初栽培していた双葉郡広野町が規制区域となり、育てていたブドウも全滅。耕作地をいわき市の南部に移してブドウの栽培を再開し、2013年には試験的にワインを作ることができるようになったため、2015年3月「いわきワイナリー」を設立。秋には初醸造のワインを出荷するまでに至りました。今回、東北未来カフェで提供したワインは第1号ワインです。2016年もののワインも順調に醸造されており、11月23日にはいわきヌーヴォー祭りがいわき市内で開催されます。

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★食材
オリーブを使った珍しいパスタを紹介します。薄いグリーン色をした『オリーブ麺』。
提供した『オリーブくん製カジキ』とともに「いわき食彩館」が製造販売しています。オリーブ麺はいわき産のオリーブの葉を練り込んでいるとのこと。耕作放棄地をよみがえらせる希望のパスタとして、2010年プロジェクトが発足しましたが、原発事故で一時はオリーブ栽培も支障が出ました。しかし事故にも負けず、栽培したオリーブの葉でパスタ作りに成功しました。また、いわき沖は世界的なカジキの漁場であり、いわき市内では様々なカジキ料理が考案されていますが、いわき食彩館はくん製をオリーブで漬けることで柔らかな感触のカジキを提供しています。

デザートで提供したシフォンケーキはいわきの産物ではなく、福島市の「まるげん果樹園」で作っているものを取り寄せました。まるげんは福島市の北方にあり、観光果樹園を営業しながら四季に応じてサクランボ、モモ、ナシ、ブドウ、リンゴの5種類のシフォンケーキを作っていますが、ネットなどでも有名で全国に出荷しています。

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この他、今回はイワキを代表する野菜であるサンシャイントマト、小川キノコ園のエリンギ、椎茸などを提供しました。いずれも放射線量などをきちんと測定して出荷されているもので、安心して食していただけると思います。

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(文:田崎耕次)

株式会社鈴木酒造店長井蔵
山形県長井市四ツ谷1-2-21
℡0238-88-2244

合名会社四家酒造店
福島県いわき市内郷高坂町中平14
℡0246-26-3504

大平桜酒造合資会社
福島県いわき市常磐下湯長谷町下92
℡0246-43-2053

JAふくしま未来農協伊達地区本部いわきワイナリー
福島県いわき市好間上好間字田代11-8
℡0246-27-0007

JAふくしま未来農協伊達地区本部
問い合わせ窓口 みらい百彩館「んめーべ」
福島県伊達市雪車町1-9
℡024-551-2223

いわき食彩館
福島県いわき市平字一丁目25番地
℡0246-23-3447

貴千
福島県いわき市永崎字川畑25
℡0246-55-7005

小川きのこ園
福島県いわき市小川町上平字中平7番地
℡0246-83-2500

まるげん果樹園

福島県福島市大笹生字鹿ノ畑13
℡024-558-3523